「YESSHOWS」はある意味「DRAMA」の裏作的作品であり、ほぼ時を同じくして発売されている「CLASSIC
YES」と合わせて「クリス政権」のYesの象徴的行為である。この80年代の初頭に発売され、「90125」で再び世界規模の成功を収めるまでの「ビジネス」の部分を牛耳るクリスの力を明確にしたとも言える「行動」である。が、何よりファンにとって、特に「アンチDRAMA」ファンにとって思わぬボーナスであった事には間違いが無い。
この作品は「TORMATO」ツアー終了後、クリスの「単独プロデュース」のもと、選曲、ミックス等が行われ、他のメンバーの反論を聴く事無く物事が進められた作品である。
と言ってもジョンとリックは脱退表明済みで、アランもスティーブも「金の為」で納得した「業界ではよく有る事」と割り切った主旨の発言をしている。「CLASSIC
YES」も同様、クレジットの「Compiled by
クリス」が全てを物語っている。何れにしろ「DRAMA」と「XYZ」を経て「90125」に至る手前の、最後の70年代の総括を行ったともとれる作品である。
もともと、ビジネスとしては70年代にも同様の営業展開をしているYesだが、よく考えると面白い流れがあるのに気がつく。
I期.1st.2nd |
60年代から70年代にかけての試行錯誤の布石 |
II期.3rd.4th.5th |
70年代前半の音楽的頂点と商業的成功 |
III期.6th.7th |
70年代中盤の頂点維持の為の混乱期 |
IV期.8th.9th |
70年代後半の再出発 |
V期.10th |
80年代への問題提議 |
そんな中でのライブアルパム、ベストアルパムの発売のパターンを考えるとまず「YESSONGS」は商業的成功を収めていた勢いも後押しして、3枚組というヘビィな内容でありながらも、U期とV期の狭間に発売され、U期そのもののベスト盤的性格を持ち合わせていたものであった。「YESTERDAYS」はT期のベストとして本来同時期に出るべきアルバムであったが、レコード会社の判断で発売が遅れV期の2枚の狭間での発売となった。
このあたりは今回の「YESSHOWS」「CLASSIC
YES」でも同様で、「YESSHOWS」は販売告知が79年にされていたにも関わらず(当時ロッキンfではレビューまで載っていた)「DRAMA」を優先させたいレコード会社と、先に述べた他のメンバーとの議論で実際の発売は80年の「DRAMA」発売の2ヶ月後となった。当時のライブアルバムの発売中止の有名な事件はKISS、TOTO等でも経験しており、ファンとしたら「またかよぉー」などと思っていただけに2年越しの発売は嬉しいやら呆れたやら・・・。
内容的にはU期「以外」からのベスト的編集で「裏YESSONGS」として、70年代後期のライブの様子を伺う作品となり、平行して「U期」を含めたベストとして1年後の81年に「Compiled
by クリス」の「CLASSIC YES」を発売する事になったのである。が、しっかりソロの「Fish」を入れているのがビジネスマンとしてのクリスの抜け目の無いところである。あくまでも自分だけは残る気でいる・・・いやっー競争社会でんがな・・・
とにかく波瀾が多いバンドなので「一波瀾」起きる事に「ライブ」「ベスト」を発売して「けじめ」をつけている様にも見えるがとどめが「解散・再結成!!」、その危ういバンド運営がマニアにはたまらなかったりもする・・・嗚呼なんて商売上手なんだ・・・要は「その時点」で「最新」のスタジオアルバム、ライブアルパム、ベストアルバムを購入すれば一通りの歴史が手に入る営業戦略! そらまぁこんだけ利権と利潤が絡んだら喧嘩にもなるわな・・・歴史の裏に戦い有り!(あっまだ現役だったね)。
発売当時の仲間は90分カセットテープ(74分が発売される前の時代!!
CD以前だよ!! )に「YESSHOWS」を録音すると(全曲で約76分、今回はCD1枚に収録かな??)必ず片面7-8分テープが残るので、「CLASSIC
YES」のおまけのシングルレコード・ライブ版の「I've
Seen All Good People」「Roundabout」を補録して70年代後半のライブを想像して楽しんだものだった・・・手元の自分の参考テープが正にそれ!
でもちゃんとアナログ盤を出して見ていると、中見開きのライブの写真は4枚とも「TORMATO」ツアーのもので、ショルダーキーボードのリックが中々目立っている。
このキーボードは当時N.Y.のカスタマーが受注生産していたモノで、他に所有していたのはスティーブ・ポーカロ、デビッド・ペイチ、ジョージ・デューク、ハービー・ハンコック等の「超」売れっ子Keyばかりであった。しかし、はっきり言ってリックには似合わないと思う。取り敢えずファッション・センスとその体格・・・とりあえずビデオでのスターシップ・トゥルーパーの後半でスティーブとソロ合戦を演っているがうーん・・・。
また、円形回転ステージの様子がよくわかり、結構8人Yesの頃に繋がる舞台設営と言うか、この舞台にビルとトレバーとトニーを乗せたような感じでもある。余談だが、このように四方八方お客に取り囲まれると、結構メンバーの盛り上がりは違うものである。特にドラマーは普通メンバーの後姿とお客の顔だけを見ているのだが、メンバーと対面式の演奏になり、「ノリ」が良くなるもので、リック時代のライブ音源での「押しまくり」のビート感はこういった状況の産物とも思える。普段は横一列にセットされるKeyとは対面に位置があり、視点の左右にスティーブ・クリスときて、真正面の視線上にはジョンとくればノリも当然変わってくる。特に他のメンバーの音が出ていない瞬間のリズムの「プッシユ」は、そういった状況のアランの「アイコンタクト」による「オシ」を感じてしまうのはこのライブの面白さである。
発売の成り行きと状況ばかり書いてもなんなので、そろそろ「音」の話にいきます。
特徴的なのはリック(77.78年)とパトリック(76年)のライブが「混在」する編集であり、当時の日本では体験出来ない時代のライブとあって中々興味深く、近年ではこの時期のライブ映像も公式版で発売されている。そして「リックのパートを弾くパトリック」があるのも面白いが、それはそれで曲別に見てみよう。
A1「パラレルは宝」77.11収録
お馴染みの「火の鳥」のSEから雪崩れ込むように始まる当時のツアーのオープニングの定番。が、79年ツアーにはシベリアン・カトゥールになっていたのは何故??
タイトルの邦訳の意味はよく判らんが、イントロのダイアトニックな和音の平行移動は、結構精神を高揚させる響きである。後半のリックのソロのバックのアランとクリスが妙に目立って聞こえるのが面白い。と言うか当時のシンセの音質の「コシの無さ」を感じるのはあんまりか?
とにかく当時のアナログ・デジタルの過渡期のポリシンセ音はどうも「ラブビーチ」の例をあげてしまいそうで・・・原曲のチャーチ・オルガンを安易にシンセに置き換えると結構辛い当時の状況が・・・逆に同時期のU.K.の素晴らしいシンセの音質、楽器の選択が音楽性にに直結した時代のシンセ論を書きたくなるが、それはここの主旨と違うので割愛!!
A2「時間と言葉」78.10収録
パトリックの頃のツアーのアンコールでは「スウィートドリームス」だったが、リック時代はこれでした。原曲はオーケストラの導入によるアレンジだったが、当時の確執によりピーターのギターパートがイントロ以外カット寸前で、トニーも引き気味なアレンジだったのが、逆にライブならではの「割り切った」アレンジで面白い。特にピアノのオブリガード等がこう言った「シンプルなコード進行」にはぴったりで、今から思うと何故原曲はオーケストラでアレンジしたのか??? むしろトニーがピアノを弾いていたらどうなったのか? などと思うアレンジである。
A3「究極」77.11収録
めちゃ大胆な前曲との繋ぎに当時はずっこけたもんだった・・・おいおいっクリス君!もうちょいなんとかならんのかいなぁー!! ただスティーブのギターは冴えておりジョンにも活気がある。テイク自体は悪くないのだが、この繋ぎだけは・・・Yes流ロックンロールとも言える快作で、客受けも非常に良いのがわかる。
B1「錯乱の扉」76.8収録
いやー考えたらパトリック在籍時のツアーはこの曲と「危機」「儀式」と長尺のオンパレードだったのね!!(この3曲で1時間以上!) 特にパトリックはリズミカルなコードバッキングや、Yesの歴代Keyの中でもフェンダーローズの使用率が高く、当時の「フュージョン」的な匂いのする存在感が感じられる。が、ROCKのフィールドに居たファンにはそれが新鮮だったのか? ならば後にPOPなフィールドから来た「2人」が否定されるのも、この時点の宿命だったのか? このあたりは紙ジャケの売上に正比例するのだろうが・・・
意外だが「感覚的な符割」のフユージョン的リズム部分は、パトリックの加入によってもたらされたこの曲あたりが如実である。70年代後半のライブにおけるアランとクリスのコンビは、70年代前半のビルもしくはビルの影響下のアランとクリスに比べて、クリスがやや大きな符割にアランが細かいフレーズを呼応させるなど、ビル時代とは逆のよりビート感の溢れるYesに変革をもたらしたのが、このアルバムでの聞き所とも言えるかもしれない。また、当時のスタジオでも「自由の解放」等かなり反映された楽曲を生み出している。
当時Yesを脱退したビルがKing Crimsonで「無音=休符」とまで解釈・実践の場を求めていたのとは好対照で、ビルの脱退・アランの参加が双方のバンドに好影響をもたらしたのは疑う事のない事実である。
またパトリックが「シーケンスサウンド鳴らしっぱなし」を使用しているが、意外と「危機」のイントロのSE的に聞こえてYesらしさを感じる。が、ある意味SE的発想で無いならば、現代音楽的なパトリックのアプローチかもしれない。「非楽音」で空間を支配する、これは歴代のKeyの中でパトリックのみが行った手法であり、後のポリフォニック・シンセの発達の中で埋もれ消えていった手法でもある。
余談だがこの曲はトレバー・ホーンが大好きな曲で、彼は当時のライブを観に足を運んでおり「Soon」の部分にはいたく感動したとの言がある。
C1「鯨に愛を」78.10収録
私は鯨が大好きです。だからこの曲は嫌いでーす・・・なんて事はほっといて珍しく政治的匂いのする曲でしたね。クリスのオートワウのかかったBassは私も当時大好きでよくコピーしたもんな・・・特に「永遠の翼」あたりも好きだし、ライブでの暴走するクリスはかっこいい!! 後半に出てくるリックの「和音の出るシンセ」によるソロは当時輸入販売価格が150万円程度だったPolyMoogによるもの、アマチュアは涙して聴きました。が、今から聴くと少々ショボク、当時の未発達なポリフォニック・シンセの「好例」とも思えてしまうなぁ・・・それでも「和音」がシンセで弾けるのが夢の時代、当時の私は「四畳半フォーク」ならぬ「四畳半プログレ」であったのを今想う・・・。
C2「儀式」Part1 & D1「儀式」Part2 76.8収録
おいおいっなんでブツ切りにするんだクリス!!
と怒りたくなる収録方法。NHKヤングミュージックショーで当時のライブはオンエアー済だったので、予習してあるだけにショック、頼むからCD化ではちゃんと繋いでね・・・
でもこの曲ライブのブートとかでチェックすると平均25分演っており、このアルバムにはさらに長いテイクが収録されている。これは印税が5分ごとに加算されるからわざとかな?? でもね、GenesisやLZもLP片面30分近く収録しているのに28分でぶつ切りするならば最初のジャム部分をなんとかするとかさぁ・・・そうそう、その最初の曲が始まるまでのジャム的な部分でのアランの刻むビートに注目すると16ビートのややハネ気味(ツゥク.ツゥク.タァカ.ツゥク)を叩いており、このあたりのビート感はビル(ツッ.ツッ.ター.ツツ)とは異次元のモノである事を感じて頂ければ、後半のド
ラムソロ等のワイルドなノリが一層楽しめる。と、思えば無駄でもないか(どっちや!!)。
しかし、80年代のクリスのBassソロの定番となる「アメイジング・グレース」の断片が聴けるなど、「9012
Live」の「白魚」の原形とも言える部分の発芽をこの曲に感じるられる。
これをアラン・クリスのリズムコンビの原点として聴くと、また違う楽しみもあるが、そんな事はどーでも良いと感じるジョンのファンの前で、理論や楽器の解説は無用なのがYesの恐い所でもある(DRAMAを買ってね、みんな・・・)。
原曲ではリックは「コードとメロをなぞる程度」しか弾いておらず(確かコード以上弾く気が無いと言ってスタジオを去った)、意外とパトリックが「自分なりに解釈」を加えた演奏をしているのが面白い。「錯乱の扉」でも使った「シーケンスサウンド鳴らしっぱなし」をイントロでやっており、後半部のパーカッションのみの部分ではアランのドラムにPAでシンセのフィルターをかけているのが面白い。この部分での他のパーカッションはジョンがティンバレス、カウベルの高音系、クリスがティンパニーの低音系を担当している。また「ホーミー」の様な声のエフェクトが入っているが、ライブ映像やブートを聴いてもこのパターンは演っておらず、これはクリスがミキシングで加えた可能性もある。
でも、当時のライブの演出が一番凝っていた曲でもあり、ビデオでも観る事をお薦めします。舞台の造作物が結構視覚的効果を高めていますので・・・今一度ライブで見たい曲のNo.2です!! えっNo.1は?? 野暮な事聞かないで!
あのA面1曲目ですよ!!!
D2「不思議なお話を」77.11収録
70年代後半に最もシングルで売れた曲なので、収録は当然か。バックのリックならではアルペジオが良く再現されている。が、チェンバロ系の音色ではなく、もろシンセ音なのが無念!!
スティーブも自分のギター(特にアコースティック)とリックのポリムーグの相性の悪さは公言しており、時代の最先端Keyと言えども「Yes」に合わない例としてこの曲は印象づけられている(後に組むジェフのKeyとの相性の良さは別格らしいが)。特にスタジオで「技術・楽器」に金をかけるとライブでの再現が困難になり始めた時代の想い出か? が、後半の輪唱の部分が非常に美しく、当時のステージでは最も「聞かせる曲」であった事が伺える。
おまけ「CLASSIC YES」付属のシングルレコード(非売品の印刷が笑える!!)、多分クリスが同時期にミックスしたリック時代のライブ音源より
「I've Seen All Good People」
70年代後半のライブではアンコールでの演奏が多かった。特に「お客様みんなで手拍子」状態の後半部にメンバーの名前を呼びながらソロ回しをする所はなんとも言えず楽しい雰囲気である。特に当時リックは「ブルーノートを弾かないKey」と信じられていたのに、ここのソロ回しでは弾いているのが驚きであった。解放感の有る演奏は非常に「らしく」ポジティブな響きが感じられる。
「Roundabout」
当時のライブではギターイントロがカットされている為、滅茶苦茶現実的なロックナンバーの感もあり、テンポも上がり気味なのが当時の特徴か? しかし、シングルヒットが必須の時代に育った名曲だけに、いかなるメンバーであれYesの「名前」の下に集う者には、この曲を演奏する事が「名誉」であると最近常々思う次第である。何時の時代のメンバーであれ、この曲はメンバーの個性を越えて「Yesと言う有機体」の為に存在する名曲であり、演奏者の個性を遥かに越えた次元で語られる「曲」である。
近年「よたろう帝国」のライブでも演奏されているが、正式には「シネマ帝国」のバージョンを聴いて比較してから言及したいと思う。
さてさて最後に、私がまだ見ぬYesの来日を夢見つつ、DRAMAに惚れ込んだ時代、僅かな思いを込めていた時代。今ほどに情報も満足に無い時代、それだけに好きなモノには正直でいられた時代に感謝!! この喜びを少しでも判って頂ければ・・・レコードの発売前になると「まだ来てまへんかぁー」と予約した店をのぞいて、店長とダベっていた日々、発売日までにレコード代が工面出来ず、店長に借金して買った事もあったなぁ・・・そんな情熱は「今もある!!」と言える自分にさせてくれる「プログレ」に感謝!! 今の時代にこんな事をやらせてくれる「仲間」に感謝!!
ありがとう! みんな!!
(Jun
Green)
DATE(2001/06/04)