『TORMATO』 (1978年)
つぶれて飛び散ったトマト、分裂寸前のYES。
それとは裏腹に、実にYESらしいポップ・ソング集かな。
ヒプノシスの手による、ジャケット2作目。迷作ジャケと思った。なにも、本当にトマトをつぶさなくてもなぁ。(メンバーの意図するものと違うのですけど)
それでも、私にとってはYESを聴き始めて初めて発売日を待って買ったアルバムなので、思い出深い1枚なのです。
音的には、前作『究極』の延長線上かな。短い曲が増え、プログレ色が薄くなった。でも、以前にも増して張りのある、ジョン・アンダーソンのハイトーンボイスは、健在。ポップになっても、YESらしさは失ってはいない。
一度離れ改心して戻ってきたリック・ウェイクマンが、張りきり過ぎの感のある『究極』より落ち着いてきて、楽しそうにやっていてなんか微笑ましい。相変わらず、きらびやかな鍵盤の音だ。
観念的な感じはなく明るく楽しい楽曲ばかりで、素直に楽しめます。ライブ映えしそうな曲ばかり。
例え「これは、プログレじゃ〜ない」と否定していても、YESのルーツの1つは、Beatlesや、60年代アメリカのポップ・ソングなどである事をふまえると、こういう展開も納得でき、実によく聴きました。
聴いているうちに、その音のカラミなど、結構こだわっていることが解ってきました。だけど、イマイチまとまりに欠ける出来という感じは否めません。
当時の音楽雑誌は、なかなか厳しい事を書いていたような気がしますが、私はそれでもYESの肯定的な面が具体化されたと解釈し、一応支持していました。
その頃流行ってたパンクやレゲエの影響をもろにかぶらず、実にYES以外の何ものでもないと・・・。
その後のツアーのあと驚くべきできごとが・・・。
今思うとその後の進路は、裏ジャケのメンバー写真が物語っていますね。ジョンとリックが同じ方向を向き、クリスはあらぬ方向を向いている。スティーヴ・ハウと、アラン・ホワイトは我関せずという感じで正面向いている。心なしか音的にも、それが現れているような気がします。
もう、その頃からかメンバーの気持ちが離れつつあったのは。どうしてなの?と錯乱の扉・・・(アルバム違うけど)
それ以後、私もますます過去にさかのぼる事に拍車がかかってしまったのです。 私にとってのYESの最大の特徴は、オリジナルメンバーであるジョン・アンダーソンとクリス・スクワイアの絡みの醍醐味にあると、思っていたので。
*レヴューというか、やっぱり感想文と想い出話に終始してしまったので、曲目についての・・ あ、やっぱり、感想文。
1. Future Times/Rejoice (6:45
)
“輝く明日/歓喜”
期待させるようなタイトルなんだけど、各メンバーの主張の張り合い、もう 惰性ともいえなくもないような。
リズムは、ドコドコしていて、ハウのギターが これでもかと絡むという具合。クリスが、意外と消極的。ジョンが朗々と歌い上げ、ここぞとばかりに、リックの鍵盤がきらめく・・・。でも“歓喜”はいいね。
2. Don't Kill The Whale (4:56)
“クジラに愛を”
YESにしては、珍しいというか、初めてとも言えるメッセージソング。
メロディーもリズムも明解な、実に覚えやすいシングル向けな曲。
“くじらを殺すな”が、“愛”になる邦題おきまりのパターン。ですが、 ホントに、心憎い位のいい曲と思います。ポリムーグによる、クジラの泣き声のような音が、いい感じに郷愁を誘っています・・・これは、リックの粋なはからい。
クジラが海で、波しぶきをあげている映像を背景に、裏ジャケの格好をしたメンバーが 演奏しているというように合成した、いかにも!なビデオ・クリップがありました。
3. Madrigal (2:23)
“マドリガル”
リックの中世趣味の現れた、ハープシコード中心の曲。それにジョンの声がよく合っている。
曲中に絡んでくるハウのクラシックギターも、いい感じです。
クリスとアランはコーラスでの参加だったと思います。
この曲にもビデオ・クリップがあって、中世の楽士(貴族?)の衣装のリックが 中世のお城の広間で、まず、うやうやしく御辞儀をしてから、ハープシコードを弾き始めるといった仰々しいものでしたが、それが結構笑いをとっていましたね。
ところで、イントロ部分、ドリカムの曲でそっくりなものがありました。
4. Release, Release (5:47)
“自由の解放 ”
調子のよい、アルバムのなかでは一番ロックン・ロールで、元気な曲。
サッカーの試合中の歓声が効果的で、盛り上げに一役買っている。
5. Arriving UFO (6:03)
“UFOの到来”
ジョンのSF的趣味な曲。いかにもUFOといったテクノっぽい音が、安直な気もするが、爆発しても、さらにピコピコポヨポヨと続くところがダメ押し。
6. Circus of Heaven (4:30)
“天国のサーカス”
ジョンのまさにお伽話の世界。子供に語って聞かせるような・・・可愛い曲。
途中、ジョンのまだ幼い息子(多分)の話し声を入れ、親バカぶりを発揮。
ライヴでも同様にやってた気がします。
しっとりとした、佳曲。
7. Onward (4:02)
“オンワード”
クリスの曲。といっても、あまり主張してないベース。
地味めだが、これもしっとり、ストリングス入り。映画の1シーンといっても おかしくない雰囲気の曲。
8. On The Silent Wings of Freedom
(7:47)
“自由の翼”
この曲がこの中では一番、昔のYESっぽくプログレているかな、長いし。
クリスもジョンもまだ、諦めてない。他のメンバーだって負けてはいないけど 不思議と整合感も感じられる。この曲がトリで引き締まってます。
一番ライヴで聴きたかった曲ですね。
なんだかんだと、まとまりなくグダグダと書き連ねてしまって、すみません。
以前の恋人(!)を思い出しつつ書いたので、相当私情が入っています。
まだ、愛しています。だから、失礼な表現は許してね。
(紫)
DATE(2001/6/15)