1,2があって3がある。それが世間の道理というものであるが,こと
Yes に関して言えば「まず 3rd
ありき」ということになっている。1st
や 2nd は「原石」という形容をもらっているに過ぎない。確かに
3rd "The Yes Album"
は彼らの出世作であり,筆者自身,非常に愛着のある作品である。しかし,成功できなかったという歴史的事実をもって,1st
や 2nd
を軽視していいものであろうか。特に
2nd には,プロデューサーの人選,オーケストラの導入,そしてアルバム完成直後に訪れた初めてのメンバー・チェンジなど,語り尽くされてはいない多くの問題があるように感じている。そんな話題を絡めながら,ここでは1と3の間にある2を語ってみようと思う。
さて Yes の 2nd アルバム "Time And A
Word / 時間と言葉" は1970年7月に発表された。前年7月に
1st アルバム "Yes" を出し,Melody
Maker誌編集長の Tony Wison からLed Zeppelin
と並んで,「期待される新人」に選ばれていた彼らではあったが(註1),未だに商業的な成功を収めることはできていなかった。そんな彼らがこの『時間と言葉』で採った戦略はいかなるものであったか。残された音源及びアルバム・クレジットからわかる事実は以下の通りである。
◎楽曲自体の水準は 1st
より向上した(ように感じる)。"Then"
や "The Prophet","Astral
Traveller"
のように動と静,緩と急のめりはりのはっきりした曲が登場し,3rd
に繋がっていく。明白な組曲形式は未だ採用されてはいない。
◎楽曲のクレジットが Jon
に偏っている。1st
における延べのクレジット数は Jon 5曲,
Chris 4曲,Bill 1曲であるが,2nd では
Jon 6曲,Chris 1曲となり(註2),さらにメンバーではない
David Foster(註3)が Jon
との共作という形で2曲でクレジットされている。ちなみに
3rd は Jon 4曲,Steve 2曲,Chris
3曲となっていて,初の Yes 名義の曲("Yours
Is No Disgrace")まである。(註4)
◎1st,3rd
とは異なり,プロデューサー・クレジットに
Yes の名前がない。ここでプロデュースにあたったのは
Tony Cox,当時のメンバーの証言によると
Jon が連れてきた人であるらしい。彼は元々ポップス・シンガーで,アレンジャーとなってからもポップス系を得意とした。(註5)このような人物が,ジャズよりのプレイをする
Peter Banks
を気に入らなかった,というのは大いに頷けることである。実際,Peter
のプレイはミキシング段階でヴォリュームを下げられたり,さらにはカットされてしまったりしたらしい。(註6)
◎2曲を除いてオーケストラが導入されているが,成功しているとは言い難い。たとえば
"No Opportunity Necessary, No Experience
Needed" は BBC 音源(註7)にオケなしのヴァージョンが残されているが,オケ入りと比べて何ら遜色がないどころか,こちらの方がより
Yes
らしいと言えるのではないだろうか。また,"Everydays"
のスロー・パートなどいわゆるスタンダード曲的味付けで場違いと言えばあまりに場違い。(註8)さらに,タイトル曲の
"Time And A Word"
にしたところで,この時期の Yes の曲としては異色なものとは言えまいか。
以上のことから推測してみると,この『時間と言葉』は
Jon が主導したポップス指向のアルバムであるといえるだろう。その指向が,プロデューサーの問題と相まって,よりロック・バンド的なあり方を求める
Peter との間に軋轢を生み,Peter
を「クビ」にすることになったのではないであろうか。(「オレに文句があるのか。文句があるなら出ていってもらおう。」的なやり取りが想像される。)(註9)
このように考えると,Peter
が後に結成した Flash が初期 Yes
的な音楽性を持っていたとしても不思議ではない。"Time
And A Word" 制作時に Yes
結成時の理想像に忠実であったのは
Peter
の方で,そこから脱線していたのは Jon
の方ではないだろうか。
さらに,このアルバムの制作で生じたバンド内人間関係の危機こそが,Steve
Howe の加入,Eddie Offord
の起用と相乗して,バンド一丸となった傑作
"The Yes Album"
を生み出したのだ。そういった意味で,"Time
And A Word" は単なる「原石」などではなく,Yes
成功のもととなったスプリング・ボードなのである。
以上,1と3の間にある2について,真相と妄想をとり混ぜて書いてみた。
(2001/6/5 MIB)
(蛇足)
もともと筆者には「Steve Howe なしに
"The Yes Album"
は可能であったか」という問題意識があった。そのことに関しては「歴史に
"if"
はない」と答えざるを得ないが,かつてあった通説「Peter
Banks
は凡庸であったからクビになった」は改める必要があるだろう。無論,「とびきり腕利き」とは筆者も思わないが,「凡庸」はないだろう。
また,本稿を書くにあたって,かつて無いほど
1st と 2nd を聴いた。すると,これがいいんだな,なかなか。黄金期の作品と比べれば見劣りがするのは確かだが,原盤がレアというだけで珍重される
B
級バンドの音楽より,聴き所が多いんじゃないのかな。世評に惑わされずに,まだ聴いていない人は是非聴いてみて!
註1 "Yes"
再発盤の英文ライナーより。
註2 他に2曲のカヴァーを含む。"No
Opportunity Necessary, No Experience Needed"は黒人フォーク・シンガー
Richie Havens の曲。彼のアルバム
"Something Else Again"
に収録。ウッドストックでギターをチューニングしながら熱演した人だ。"Everydays"
はご存知 Stephen Stills の Buffalo Springfield
時代の曲。"Buffalo Springfield Again"
に収録されている。
註3 The
Warriors で Jon と共に活動。後に Tony kaye
の Badger にベーシストとして参加。Chicago
などのプロデューサーで知られる David
Foster とは別人(のはず)。
註4 勿論,クレジットが楽曲の作者を正確に表しているとは言えない。(イエス・ファンには『こわれもの』において,所属出版会社の問題からリック・ウェイクマンの作曲クレジットがないという事実が知られていよう。)しかし,最低限その曲を中心になって作りあげようとした人物を指している,とは言えまいか。
註5 赤岩和美氏の『時間と言葉』日本盤ライナーより。
註6 ティム・モーズ著『イエス・ストーリー』より。
註7 "Yes
/ BBC Sessions 1969〜1970 Something's Coming"
註8 アレンジャーの
Tony Colton はポップス畑の人。
註9 対立の深刻さは,英盤の4ヶ月後にリリースされた米盤で,作品には参加していない
Steve Howe
の入ったメンバー写真がジャケットとして採用されて事からも,窺い知れる。
DATE(2001/06/05)
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