上記のケースを音楽理論視点から解説すると(私はジャズ理論を学んだ為、そこからの視点での分析となります)、クリムゾン=ジャズ的、というのはまずコードの部分である。断っておくが「21世紀の〜」の間奏部などの「スタイル」ではなしに、和声の部分である。テンションが入るものも多いが、マイナー7thの上でメジャー7thを鳴らす、といった通常のジャズ理論でも解析に苦しむ和音も出てくる(「戦慄
Part2」等)。
また近年の「VROOOM」「The ConstruKction Of
Light」でもそのような(実際はジャズ理論よりひねくれているが)コードは見られる。そのようなコードの使い方は、他の5大バンドには見られず(例えばフロイド等とはコード進行が全く違う)クリムゾンの特徴の一つと言える。
EL&P=クラシック、と書いたが、実際はキース・エマーソンがクラシックのフレーズを引用したり、そのままクラシックの曲を題材にすることが多かっただけで(そうすれば嫌でもクラシックの和声になる)、それらを取り除けば、そこにあるのは間違い無く「ロック&フォーク」であろう(皆さんよく御存じでしょうが(笑))。
さらにはジェネシス(特にゲイブリエル〜4人期)の場合も、コードに関する部分ではトニー・バンクスが負う部分が多かったように思う。 で、ベースのマイク・ラザフォードはペダル・ベースを踏んでギターを手にすることが多かった為、ペダル・ベースで一つの音を踏み続けることによりコードとしてはオンベース(ペダル)になり、その上でバンクスが(陰鬱な(笑))コードを鳴らすことにより、あのような雰囲気になるのではないだろうか。が、今回のテーマからは外れるが、リズムの面ではイエスと共に「疾走感」がある(フロイド、クリムゾン、EL&Pとは違った)。7拍子などで突っ走っていくのも、ハーモニーと同じように重要なこのバンドの大きな特徴といえるだろう。
さてイエスである。
前作『The Yes Album/サード・アルバム』でスティーヴ・ハウが加入し、さらに本作『Fragile/こわれもの』ではリック・ウェイクマンが加入したことによりクラシックの技法等を取り入れ、大作主義へと傾倒していったとされるイエスだが、実際に音楽理論の視点から見るとどうなのであろうか。
ここではアルバムの最終曲、「Heart of
the Sunrise/燃える朝焼け」の幾つかの箇所を題材に解説してみる。
まず出だしに曲のテーマが奏でられる。コードは
G#minor ともとれるが実際にはノン・コード的である。 このユニゾンフレーズにベートーヴェンの『交響曲第5番/運命』のテーマ部に似た印象を受けるのは私だけだろうか?
テーマの終盤のキメの部分もほぼノン・コード的だが、拍子は
6/8→6/8→5/8→6/8→6/8
となっている。 もちろん、1曲を通して拍子は変化し続けるのだが……。3/4、10/8、3/8、5/8、7/4等々……、ハネるところもある(曲の中盤「Strait
lightmoving and removing〜」と歌うところ)。
続いてはベースのフレーズが導く、次のセクション。G#m7
コードのアルペジオを弾いているが、ペンタトニックスケールと解釈したほうが良いかもしれない。所々と最後のキメの部分でA#音が効果的に使われている。
また、ここでの聴きどころは全体が4/4拍子で進行している中、ギターで6/8拍子のテーマがからむ部分だろう(4/4拍子に合わせて6/4拍子になっている)。4/4拍子で数えるとちょうど6小節でアタマがそろうようになっているが、こういった部分はまさに「イエス的な」部分であろうか。ストリングスが4度のヴォイシングを主体としているのも興味深い。
ジョン・アンダーソンが静かに歌いはじめるセクションに入ると、今度はKeyはB♭minor
となる。G#minor から B♭minor
、と見るとわかりにくいが何のことはない、全音上に転調しただけである。 が、この転調に明確な脈絡は見られない。組曲的発想ととらえて良いと思う。コード進行とメロディーの関係を見てみると、共にクラシック的である。sus4の使い方なども、ポップスやジャズとは違う印象を受ける(バッハ的、とまでは言わないが)。
メロディーがコードのテンション音となる部分を見ると、長い音符の箇所でいくつか見られる(「How
can the wind〜」や「Dream on on to the〜」といった箇所)。だいたい次のコードが下に降りていっているので次のコードのコードトーンに解決しているが、なかなかきれいに響く箇所だ。
以上のセクションを組み合わせて、基本的な曲の構成が作られている。
さて歌に入ると割と同じ流れの様だが、ここでも細かく転調はしている。上記の箇所では
B♭minor だったKeyが、途中妙なリズムになるところ(続いて歌が「Lost
in their eyes as you hurry by〜」と入る)では
E Majar に転調している。まあ転調の仕方としては、B♭minor
の平行調 → D♭ Majar = C# Majar
の同主調 → C# minor の平行調→ E Majar
とでも解釈すればよいだろうか。
再び歌が「Lost comes to you and then after〜」と入るところで
B♭minor Keyに戻るが、そこでの転調も実に自然に聴こえる。
上にあげたのを始まりに転調につぐ転調で最後までいくのだが、上記の例がもっともよい見本のようなので解説した。
全体のコード進行については割と普通(ジャズ理論の視点から見ると)であるが、4度下のコードに行くパターンが何回か見られる(
E♭9 → B♭m など。もちろんドミナント解決する7thコードではない)。ブルース的進行ではもちろんないし、ビートルズがよくやったような4度進行とも印象が違う。やはりクラシック的なコードの動きを狙っていたのではないだろうか。
各楽器の音使いにまで言及しているとキリがないのだが、クリス・スクワイアのベースの音使いについては触れておこうと思う(リズムではなく、ハーモニーに関わる部分)。
この曲での彼の音使いは非常に興味深い。基本的にはコードトーンを奏でながらランニングベースのようでもあり、またカウンターメロディーとしても成立しているのだ(ベースラインを聞いただけでも曲の判別がつくだろう)。 このようなベースラインはこれ以前、以後の時期にも見られず、同じアルバムに収録されている曲とも異なっている(「シベリアン・カートゥル」の一部分は近いものがあるが)。 ベースの聖域、ポール・マッカートニーやジェームス・ジェマーソンに匹敵する、と言っても決して言い過ぎではないと思うが。ギターやキーボードよりも曲に対する重要度は高いと思うし、あの「ラウンドアバウト」よりも重要なベースラインではないかと個人的に思う。
さて全体的な印象は他でも言われている通り、やはりストラヴィンスキーの影響を感じる。ハーモニーは普通にクラシック的にやっていると思うが、リズムはやはりストラヴィンスキー的に作ったのではないだろうか。楽器によって拍子が異なるように聴こえる箇所や、複合した拍子などはそう思える。
もちろん周知の通り彼等はコンサートの時、ストラヴィンスキーの『火の鳥』から1曲目に入っていく連中だが。
こうしてみると、よくライナーなどに書かれる
「イエスが作り上げた壮大な交響曲」
「ロック版のストラヴィンスキーともいえる作品」
という文章にもより納得できるのではないだろうか。
世の中に音楽理論を拒否する人、否定する人達が沢山いるのは承知のことだが(もちろん感性だけで聴く、ということを否定するのではない)、
「なぜこのハーモニーが美しく聴こえるのか」
「自分の曲でそういった印象を与えるにはどうしたらいいのか」
といったときの、分析の「道具」としては非常に役に立つものだ。
イエスの紙ジャケ盤は劇的に音質が向上しているが、より聞き取りやすくなった音をこういった視点から聴いてみるのもたまにはいかがであろうか?