5.危機

1972

  1. Close To The Edge危機
    a) The Solid Time of Change 着実な変革
    b) Total Mass Retain
    全体保持
    c) I Get Up I Get Down
    盛衰
    d) Seasons of Man
    人の四季
  2. And You And I 同志
    a) Cord of Life 人生の絆
    b) Eclipse
    失墜
    c) The Preacher The Teacher
    牧師と教師
    d) Apocalypse
    黙示
  3. Siberian Khatru シベリアン・カートゥル
Jon Anderson: Vocals
Chris Squire: Bass and vocals
Rick Wakeman: Keyboards
Bill Bruford: Drums
Steve Howe: Guitars and vocals
はじめちゃん
Rockin'Fish
しゃべる太鼓
     
[INDEX]

 

はじめちゃんの危機


今回このレビューを書くにあたり、久し振りに「危機」を聞いた。
今はアナログ盤が手元にないため、残念ながらあのジャケットを見ることができない。
内ジャケットのすばらしいロジャーディーンの絵が脳内に溢れる。
それから、写譜ペンで書かれた歌詞、無造作に書かれているのを思い出す。

「危機」って聞くほうの気持ちも重要である。
一生懸命聞こうとする人間にすなおに応えてくれる。
決してBGMには成り得ないのである。

ぼくも楽器をやる人間として、演奏面についても何かを書こうと思ったが馬鹿らしくなってきた。
どうやったらあんな事を思いつくのか?
テクニックがあれば、コピーは出来る。
しかし、どうやったらそのアイデアが出てくるのか?
それの方が重要だ。

昔聞いた事のある人は、これを機会に聞いてみよう。
聞いたことの無い人は、ぜひ聞いてみよう。

今の時代にはない何かを感じる事ができる。
それは、メンバーがセッションを通じて作り上げた「危機」。
喧嘩しながら作ってきたこのアルバムには、魂が宿っている。

もし、当時のレコードの録音時間が今と同じ74分であったとすれば、「危機」は70分近い曲であったのかもしれない。
当時のアナログの録音時間を考えると、A面だけで抑えたかったのかもしれない。
それがI GET UP I GET DOWN で2つの曲を同時に
進行させるというアイデアにつながったのだろうと思う。

とにかく今の時代には無い、魂のアルバム。
1つ1つの音に込められたその音を自分の耳で確認しよう。
そして、鳥肌を立てよう。
3曲に込められた魂を!
脳内麻薬が。。。。。あぁ。。。

(はじめちゃん)

DATE(2001/6/10)

 

 

Rockin'fishの危機

Close to the edge

このアルバムは私がこれまでの生涯で一番回数を聴いたアルバムです。
どの曲も頭の中で全ての楽器、歌を再生することが出来ます。
もし自分の棺桶に1枚だけ入れるならおそらくこのアルバムを選ぶでしょう。


本作は万人が認めるYesの代表作であるだけでなく、ロック史を語るにあたっても欠かせないエポックメイキングなアルバムです。
このアルバムを語る時、「一部の隙もない整合感」、「透き通った美しいハーモニー」、「計算され尽くした構築美」といった言葉がよく使われます。
確かにその通りであると思いますが、私はここにもう一つ「気持ちの良い浮遊感」を挙げたいと思います。
この浮遊感を演出するのはJonのハイトーンボイスとBillの繊細なドラミングです。
またRoger Deanのアルバムジャケットもその印象に一役買っているでしょう。
アルバム全体を支配するのはSteveのギターであり、彼の生涯のベストワークであると思いますが、この作品が結果的にここまでの成功をもたらしたのは前出のJon、Bill二人の個性によるところが多いと思うのです。


1.はトータル18分、アナログ時にはA面全てに及ぶ組曲です。
この長時間を一気に聴かせるアイデア、構成力は本当に素晴らしい。
小鳥の鳴き声から入るイントロ、Steveの個性的なソロ、Rickのオーケストレーション、おそらく練りに練られたと思われるChrisのベースライン、そして前にも述べたJonのボイスとChris、Steveのコーラス、Billのドラミング(特にスネアワークが素晴らしい。)、これらが渾然一体となって一気にYesの世界に誘い込んでくれます。
途中静かな展開からRickの荘厳なチャーチが鳴り響くと、その後はラストまで一気に、息を付く暇もなく盛り上がります。
かといってこの手の大作によくある大げささを感じさせることなく、透明感に溢れたサウンドは聴いた後もすがすがしい気持ちにさせてくれますね。
「間違いなくYesの最高傑作である!」と自信を持って断言しましょう。

2.はゆったりとした美しい調べの組曲。
SteveのアコースティックギターとJonの気高い歌声が素晴らしい。
前作(こわれもの)では少し交わり具合が浅かったRickのシンセサウンドもここでは曲に溶け込み、Chrisのベースも非の打ち所がないサポートをみせます。
この曲は後にライブの定番となりますが、彼らにとってもっとも愛着のある曲の一つなのでしょう。

3.はChrisのベースリフの魅力が全開する疾走感溢れる曲。
Billとのリズム隊が素晴らしく、独特の浮遊感=グルーヴを生み出しています。
ラスト、Jonの単語を並べた言葉遊びもとても印象的です。



このアルバムを初めて聴いたのは高校生の頃ですが、先に聴いていた”海洋地形学の物語”と比べてリズム感の違いに驚いた記憶があります。
以来私はBillの虜となります。
Allan Whiteのファンには申し訳ないのですが、彼の演奏するところの”Close to the egde”はこのアルバムの出来と比べるとどうしても落差を感じます。
そんなものでYesSongsの”Close to the egde”には未だ2度と針を落としていないのです。

(Rockin'fish)

DATE(2001/6/10)

 

しゃべる太鼓の危機

「危機」レヴュー  しゃべる太鼓

< 初めに >

 1972年発表の「危機」は今更ながらの言わずもがなですが、(世間一般的には)前作「こわれもの」と伴に黄金期のYESを代表する作品として「決定!ロック名盤100選」みたいな初心者向けロック解説本の常連であり、言わばYESの「名刺代わり」に紹介される作品です。定番中の定番。ジーンズで言えばリーバイスみたいな。時期的にもメンバー的にも、脂ののりきった絶頂期の作品で前作が中トロとするならば本作品は大トロって感じで食べる方の好みにもよりますが、私的には各メンバーの小作品が収録されて時として散漫な印象を受ける前作よりもYESのYESらしさが勝ってるのと、その後の大作主義の先鞭をつけたって点で本作品に軍配を上げたいと思います。加えて言うと、ジャケットのインパクトの薄さと「ラウンド・アバウト」のシングルヒットが前作になければ圧勝ではないかと...。
(当然、前作には前作にしかない良さがありますので「こわれもの」レヴューをご覧下さい。)
 兎に角、本作品が「ロックの熱い魂」と親しみやすいメロディラインを失わず、しかしながら凡百のロックには無い圧倒的な構成力と各メンバーの卓越した超絶テクニックによって創造される"イエス・サウンド"と呼ばれる奇跡のような音空間を明確にそして強力に表現していることは間違いありません。
 
< お断り >

 すでに音楽的評価やロック史的な位置付けの確立された本作なので何を語るべきなのか?又はリアルタイムに聴き、そして聴き続ける諸兄(長い人間は30年近く)に対しどれほどの伝えるべき熱い思いがあるのだろうか?その「星一つ無い静謐な暗闇」にも似た苦悩の末、「書きたいように書く!死ぬときは皆、道連れじゃ」的な開き直りで非常に知能指数の低いレビューを「蛙の面に小便」でしてしまうことにしました。アナログ時代に「海洋地形学上の物語」全4面をぶっ通しで聴かれておられた貴兄におきましては最後までお付き合い頂けるものと祈念する次第でございます。

< 「危機」の魅力 >

 おおよそ、人間の生理的「快楽」は抑制とその解放に根本を置きます。想像してみて下さい。我慢に我慢を重ねた後の排便、部活で疲れて眠いのに先輩の徹マンに付き合わされた日の朝の布団、行事と言うことで無理繰り登った山の頂上で食べたおにぎり。「嗚呼ぁっ、100万円くれてやっても良い!(誰に?)」的な開放感、爽快感、達成感があるじゃないですか。タイトル曲「危機」には正にこの体中の全ての穴から体液が流失してしまうような「解放」があるのです。小鳥と川のせせらぎのSEに始まり破壊的なインスト、(これは強烈!)ちょっとアップテンポなボーカル部が続き、(この辺はどちらかと言うと凡庸な印象)荘厳な教会風のオルガンに厳粛な気持ちになったかと思うと流れ込む嵐のようなインスト。(この辺は最強にすごい!)ここまで全く飽きさせない構成力や演奏にも「恐れ入谷の鬼子母神」なんですが贅沢なことに、ここまでは単なる「抑制」の部分でしかないのです。
 そして「人の四季」で卑怯な程の「解放」があるのです。ジョン・アンダーソンの不自然なまでに何所までも澄みきったボーカルが「on the hill we …」と歌い出す所なのです。ここです。ここにこの曲の全てがあると言っても過言ではありません。括約筋の弱い人間は失禁してもおかしく無い程の「得体の知れない」感動と言うか感情が湧きあがるのです。歌詞とは全然違いますが、イメージ的には鬱蒼と生い茂る昼尚暗い森を抜けるとそこはには雲一つ無い青空が開け、涼やかな海風が汗ばんだ体に心地好いって感じで、(もちろん、ディーン画伯の描く淡い水彩画で)「俺は帰ってきたっ!帰ってきたぞ!(何所から?)」的な感情になってしまうのです。まるで2時間枠のネイチャリング・スペシャルを見終わったかの如き、心地好い疲れと言うか変に優しくしみじみした気持ちになってしまうのです。(しかも、たった18分で)しかし、ここで注意すべきはその部分だけ聞いてもこような魔法は起きないのです。悪しからず。最初から聴いて下さい。
 
< 「同志」の魅力 >

 アナログの場合、ここでA面が終わり、感動と体液の流失(?)で少々壊れたリスナーは「馬鹿や、スティーブ・ハウはホンマのギター馬鹿や」と熱病にうなされたようにつぶやきながら、昨日買ったコーラを取りに行くのです。するとコーラは(多分、弟が勝手に飲んでしまって)無いのです。仕方なく渋々と麦茶をグラスに注いで脱力感とやり場の無い怒りを胸にB面にひっくり返しに戻るのです。
 針を落すと(恐らくスティーブ・ハウの)「OK!」と言う言葉と伴に癒し系アコースティックギターのたおやかな調べが始まります。恐るべきことに誰も気付かない内に、既に「OK!」の部分で勝手にコーラを飲まれたことなど忘れてしまう程に癒されているのです。そこに追い討ちをかけるようなハウのアコースティックギター。こりゃ堪らんでしょう。徐々に曲調は明るく牧歌的に変わってゆきます。この時点で幼い頃に弟とやったキャッチボールなぞ思い出して、たかがコーラ程度に腹を立てていた自分の小さな存在を内省してしまうかのような展開。多分「悪かったよマサアキ...。(誰それ?)」と知らぬうちつぶやいてしまいます。正に「死人に鞭打つような」曲構成。そこからオルガンと音色の変わったギターが盛り上がり「同志よ!」と妙な連帯感が高まり隣の弟の部屋を空けてしまうのです。しかし弟は野球に出かけてそこには居ないのです。うなだれて部屋に戻るあなたに冒頭のハウのたおやかななギターのリフレイン。「戦い終わり日が暮れて」みたいなあなたを再び癒すのです。そんな感じの曲なのです。キーワードは「癒し」なのです。

< 「シベリアン・カートゥル」の魅力 >

 既に体液の流失(?)、癒しを経たリスナーの脳内ではレム睡眠が始まっております。そこへアドレナリンの多量分泌を促すイントロ・リフが流れ、再びリスナーをあの世からこの世へと呼び戻すのです。曲だけではなくアルバム全体をも視野にいれたえげつないまでの構成力に脱帽です。幾多のライブでオープニングとして使用されたこの曲の最大の魅力はその「疾走感」ではないでしょうか。最初はそれ程でもないのに徐々に徐々に加速する「俺達に明日は無い」的な暴力的なベースラインと名手ブラッフォードの1音も存在しない空間を作らない狂乱のドラムの繰り広げるリズム・バトルは、正に「桜の花はその散り際が最も美しい」みたいな最後の(と言っても3曲ですが)曲にぴったりとはまってます。疾走感は保ちつつも決して軽くないのも魅力の一つなのです。ゴージャスなのです。すべてのパートが複雑でいてメロディアスなフレーズを奏でながらも互いに争うことなく崇高な高みへと昇華していく様は「おお、神よ...。」の世界です。聴き終わったリスナーは「馬鹿や、スティーブ・ハウはホンマのギター馬鹿や」のフレーズを繰り返し倒れ伏すのでした。

< 最後に >

 非常に精神状態が「鬱」でレヴュー原稿も遅らせてご迷惑をかけました。クリムゾンのスターレスばかり聴くような状況でレヴューの為に無理矢理に「危機」連続聴きをして気付いたことがあります。余りにも明快ですが、YESの音楽とはグループ名が示す通り「肯定」・「ポジティブ」なのです。他のプログレバンドにありがちな深遠な精神世界へ沈んでいく感じはありません。落ち込んだ時...そんな時はYESを聴こう!

< おまけ >

 裏ジャケのウェイクマン格好良すぎ。ほれた。

(しゃべる太鼓)

DATE(2001/6/13)


言い始めがこうなるのかな(笑)

 

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